令和6年度政策担当秘書資格試験 解答例と解説(2)解答例編

令和6年度問題解答例

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課題1(必須)

AI やロボット等の導入は、我が国の経済成長や所得分配に影響を与え,雇用の視点からも多くの課題を生じさせる 。

以上の記述及び次頁以降の資料を基に,次の問いに解答しなさい。

①AI やロボット等の導入は,雇用や経済成長などを通じて,財政にどのような影響を与えるか。

②ロボット税が必要かどうか。

③ロボット税を課す場合には,どのように課税するのがよいか 。

解答例

①ロボットは、その自立性を生かして危険環境下での作業代行や、高速高精度の生産、サービスやエンターテイメントを通じての日常支援など様々な分野で人々の生活向上に役立つことが期待されている(資料1)。実際に、世界中で労働者1万人当たりのロボット台数は2017年以降毎年約12%ペースで増え続けている(資料2)。製造業におけるロボット密度を見ると、韓国、シンガポール、中国、ドイツといった近年産業界で存在を大きくしている国が上位に並んでおり、製造業の成長とロボットの導入が密接な関係にあることがわかる(資料3)。日本の経済成長率を見ても、2000年から2005年、2010年から2015年などの成長率が高かった時期は、TEPの寄与が高く、技術進歩が経済成長にプラスの影響を及ぼしている。(資料5)。これは財政にとってもプラスの影響を与える。

 一方、ロボットの導入で労働者の職が奪われ、失業の増加につながるのではないかという見方もある。実際、AIの導入によって、一時的には機械化可能性の高い職種のタスクが減少するとされている(資料4)。日本の場合でも、先の2000年から2005年、2010年から2015年の成長率が高かった期間は失業率も高く、それに応じて失業に伴う現金給付も増えており、財政にとってマイナスの影響を与えている(資料6)。

②2020年以降、法人税の伸びとは対照的に所得税は2022年をピークにして下落傾向にある(資料7)。様々な要因が考えられるが、ロボットの普及により、機械で代替可能性のある職が喪失したことや低賃金化も一因だと考えられる。人が稼いだものに対しては課税されるが、ロボットが稼いだものに対しては、法人税として以外は課税されないのは不公平である。近年、積極的労働市場性政策に対する支出が増えていることからも、財源は必要であり、ロボット化によって所得の増えた企業に対して、一定の負担を求めることは合理的であると考える。よってロボット税は必要である。

③税は、「公平、中立、簡素」という課税の原則に則って、設計されねばならないと考える(資料8)。「公平」という観点では、ロボットの導入で収益の増えた企業に対して、負担能力の観点から(資料9)、法人所得税の税率を高め、より負担を求める方法が考えられる。しかし、ロボットを導入した企業とそうでない企業の区別をどうするかという問題が残る。また、法人の利益は利子・配当というキャピタルゲインとなって分配されるので、キャピタルゲインへの課税強化も考えられる。一方、「中立」の原則からは、ロボットの導入によって、かえってその効果より高い税金を払う事の無いように、増収分の一定の割合に止めるべきである。「簡素」という面からは、一律に法人に法人税の負担増を求めるのが良いが、先の「公平」の観点から、ロボット化を進めた企業には、補助金や控除で一部を戻す方法が考えられる。

1210字

課題2(選択)

①我が国と諸外国における文化芸術の制度や予算などの共通点や相違点について説明し、文化諸外国の制度や施策で我が国も取り入れるべきと思われるものを挙げよ。理由も説明しなさい。

②我が国のソフト・パワーを今後さらに高めるために,どの分野に力を入れるべきか提案しなさい。その際,自由や基本的人権の尊重といった普遍的価値を重んじる先進民主主義国家としての我が国がソフト・パワーの面で他国に対して優位に立つ上でどのような効果をもたらし得るかについても論ぜよ。特に我が国よりも表現の自由が制約されている諸国と比較すること。

解答例

①我が国では、文化芸術の意義が極めて重要であるとされていながらも、文化芸術基本法にあるように「基盤の整備及び環境の形成は十分な状態にあるとはいえない」(資料1)。これを他国との比較で見ると、予算額においても、政府予算に占める割合をみても、国民一人当たりの額をとってみても、とても十分なものとは言えない(資料2-1)。文化庁予算額の推移においても平成年間の初期は増額されたが、平成13年以降はほぼ横ばい、平成30年以降は、旅客税財源事業分が増えているが、それを除くとやはり横ばいとなっている(資料2-2)。

 政府からの支出や寄付控除の仕組みが共通してあるものの、例えば米国においては寄付金控除の仕組みが我が国に比べて、対象となる団体も幅広く、その上限も高いなど、非常に充実している点が異なっている(資料3-1)。こうした背景もあって、英米と比べ、我が国の個人寄付の割合は非常に低くなっている(資料3-2)。

これらの資金的なマイナス面にもかかわらず、諸外国の文化GDPと比較すると、平成27年の調査と比べ、令和3年の調査では、他国がGDPに占める割合を減らしているのに対して、我が国は低い数値ながら、わずかに伸ばしており、潜在的な成長の余地があることが推測される(資料4)。

 文化芸術の維持発展の為には、それ自体で稼げることはもちろん、政府の財源とするためにも、文化芸術をコンテンツとして、様々な分野で稼いでいくことが必要である。近時、韓流やK-POP等のコンテンツで、世界的な成功を収めている韓国では、金融面での支援や公正な制作・流通の環境作り、融合コンテンツの育成・支援、さらには韓流拡散と連動した進出まで、政府がコンテンツ政策として、国政の課題として取り組んでいる(資料5-1)。さらには、コンテンツのみならず他産業とも関連して、輸出振興策として、戦略をたて、推進している(資料5-2)。このような、官民一体となった幅広い戦略的な取り組みは、多様な産業で相乗効果が期待出来るものであり、我が国でも取り入れられるべきものであると考える。一方、政府による介入は、表現の自由に対する侵害や、政策の失敗のおそれもあり、それらに配慮した形での支援が望まれる。

②世界のコンテンツ産業の市場部門別の2020年から2025年の年平均成長率を見ると、トップは「アニメ」(29.19%)と日本の得意な分野であるが、わずかな差で2位の「映画」(29.05%)や3位の「音楽」(12.85%)といった分野においては、大きな存在感を発揮しているとは言えない(資料6)。映画については、国際的な賞の中でも日本の作品や受賞者の割合が低く(資料8)こうした分野に更に力を入れることによって、より大きな存在感を発揮できると考える。

 また、コンテンツIP世界ランキングでは、日本が上位10位の内4つを占めているが(少年ジャンプを入れると5)、「キャラクター」の伸びが低く(4.99%)(資料6)、まだまだ伸びる余地があると考えられる。

 このほかにも近時では、国外リョコクの目的としてサブカルチャー(アニメ・漫画)を挙げる人も多くおり(資料9)、旅行関連分野も有望なマーケットとして、力を入れるべきだと考える。

 文化が国境を越えていくことによって、文化芸術基本法前文にうたわれている精神、自由や基本的人権の尊重と言った普遍的価値が、他国に伝わっていくことが考えられる。我が国は自由主義民主主義指標では30位であり、例えば、172位の中国、169位のサウジアラビア、159位のロシアの人々に、我が国の文化を通じて、普遍的価値の理解を深め、親しみを感じて貰うことによって、我が国のソフト・パワーにとって、他国に対して優位に立つという効果が期待できる。

1555字

課題3(選択)

①我が国が難民認定に積極的でないとする批判の要因。

②難民の受入れを増やした場合,どのような問題が発生すると予測されるか。

③難民の受入れを増やさない場合,その代わりに難民問題に貢献する施策にはどのようなものがあるか 。

解答例

①難民条約と難民議定書における難民の定義は「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという充分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいるものであって、その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの」(資料1)と幅の広い定義となっている。このため、国によって、難民の定義が異なり、それが難民認定数及び認定率で日本が他国に比べ非常に少ない(資料2-1)原因になっていると考えられる。また、日本では「難民」として認定している人数は少ないが、「その他の庇護」として在留を認めている人数は令和5年までの合計で6,054人おり(資料2-2)、これも難民認定数が少ない原因となっている。

 また定義の曖昧さと相まって、運用の厳しさによっても認定数に差が出てくる。日本では平成30年1月に難民認定制度の運用を厳しいものに改めた。その結果、翌年には申請者自体が前年の約半分になっている(資料3-1)。また、その国籍別の難民認定申請者の推移を見ても、平成30年以前は、フィリピン、ベトナムが非常に多かったが、運営が厳格化されてからは、その申請数が激減している(資料3-2)。その変化の原因を運用の変更だけに求めることはできないが、そもそも「難民」で無い人が、「難民」として申請していた可能性が否定できない。よって日本の難民認定数や認定率が低いのは、認定制度の厳格な運用に起因するとも考えられる。

②EU諸国においては、2015、2016年に庇護申請者数が大幅に増え(資料4-1)、それに伴って移民問題が、EUが直面している最も重要な問題として浮上した(資料4-2)。シリアやウクライナなど地中海を通じて多くの移民がやってくる(資料6-1)イタリアや受入人数の多いドイツ(資料6-2)などで顕著に見られるように、「移民が犯罪を増加させる」「自国の労働者の職を奪う」「自国の福祉にとって重荷である」と国民が思うようになった(資料5)。

 我が国でも難民の受け入れを増やした場合にも同様の問題が発生すると予想される。具体的には、移民に対する排斥機運が高まること、社会不安が増大することや、政府に対する不満が高まることが考えられる。またそれらを起因として、欧州や米国で見られるようなポピュリズム政党の伸長の恐れもある。

 移民を統合するための教育費用や行政での対応のために財政負担が増えることも考えられる。

③我が国は紛争が多く発生しているアフリカや中東から離れているという地理的な制約があり、多くの移民を受け入れるのが難しい面がある。しかし、我が国のUNHCRに対する拠出率は米国の10分の1、ドイツの3分の1程度であり、名目GNIが我が国の10分の1程度のスウェーデンやノルウェーと比べても額ベースで非常に低くなっている。我が国が難民の受け入れを現状レベルから大きく増やさないとする場合には、UNHCRなどの国際機関への拠出金を増やすという方法がある。また国際機関以外にもNPOへの援助や、難民の出身国への制裁や援助、制度・技術支援なども考えられる。

1331字

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