今年は結構難しかったです。というと身も蓋もありませんが、その理由は傾向が変わってきた為です。最初に謝りますが、数年前の問題は資料に沿って書けば知識が無くても合格できるようなものが多く、私も『受かる!政策担当秘書試験』の中で「資料が指し示す誘導に乗って書いてください」と言っていました。しかし一昨年ぐらいから「アイディアを求められている」ようになってきました。これはすでに何度か書いていたのですが、さらに今年は進化しています。
今年は「資料を解釈した上で、資料にない知識を使ってアイディアを出す」という点で難しくなっています。特に課題2は資料も指摘するポイントも多く、読み込む資料も多く大変です。これを2時間で2問を書き切るのは厳しいでしょう。
ただ、全部書けなくても大丈夫だと思います。選択式の合格者が142名中37名とのことですので、なんとか選択式試験を通過して(選択式試験で基準点に達しないと論文式試験の答案さえみてもらえません)、その中で書き負けないように頑張ればなんとか合格できるのではないでしょうか。誰にとっても難しいはずです。論文式はこの解説を読まれている方なら大丈夫(のはず)!
課題1
企業のデュー・ディリジェンスの問題です。アパレル業界などが、発展途上国で過酷な条件で労働者を働かせているというニュースを見た方は多いでしょう。それに対して是正を求めていく風潮になっていますが、国(政府)から国民へは議会があるので一応自分たちの代表が法律を作り、それによって国民(自分)に罰を与えることは可能です。しかし、企業間の取引は私人と私人の取引なので、私的自治の原則が働くので国家の強制力が弱い。個人同士が契約したなら結構なんでもやっていい、極端に言うなら合意されていれば殴ってもいいのです(但し、公序良俗という限度はあります)。というわけで、私企業間の取引に政府という公権力がとやかく言うのは難しいという前提があります。
その上で、国連と国家の関係も、国家に主権があるので、国連が国に罰を与えたり規制を加えたりするのは、国が国民にするのと違って難しいです。しかし、加盟国で決めたことですから弱めの強制力はあるということです。それが①
②は資料2,3,4を使って書く。当然、問題になっているぐらいですから日本企業は遅れているということを書く。そして、ポイントは、日本企業は目の届く国内の取引先については意識しても、海外の取引先のことは意識していないでしょう?ということだとまず思いましたが、「全体講評」を見ると「海外サプライズチェーンにおける人権尊重の不十分さを問題視する答案が少なかった」と書いてあり逆にびっくりしました。これがこの課題のポイントだと思うのですが・・・。
③は資料5、7-1、7-2でしょう。日本が問題視されているアジア地域との取引が多いこと、投資上不利になることを書けばいいでしょう。ESG投資とかPRI署名とか意味が分からなくても、なんとなくそんなものが流行なんだな、と思って書けばいいと思います。全体講評ではここが書けていなかったと書かれていますが、ここも逆にびっくりです。
④はちょっと悩みます。海外の事例(資料6)を見て、どう考えればいいのか。罰則のあるなし、対象の範囲などを参考にした上で論じる。参考になる資料はこれだけなので、後は自由に考えて書くということらしいです。
ガイドラインの策定、専門家の養成、立法化、国際条約、大(多国籍)企業と中小企業の区別等は、ちょっと知識がないと苦しいかも。課題2,3の方が知識を必要とされる「悪問」だと思いますが、これも少し知識か思いつきが必要な問題です。
①~④まで小問があるのも負担の大きい問題でした。
課題2
受験された方が「全然分からない。パス」と言われていた問題。とはいえ、IR(統合型リゾート)=カジノの是非の問題と分かると案外簡単です。それにしても①で憲法論が必要で、風営法の改正(2016)に触れさせた上で、気候変動の問題も絡めて日本のナイトタイムエコノミー、つまり夜間の消費・娯楽産業の強みと弱みを表現するという盛りだくさんな問題です。資料4、5、6を読み込むだけでも時間がかかるので、短時間での作業能力も必要とされます。
資料2は資料1との関係から、上記の憲法3論点に関係ありそうなものを探しましたが、自信がありません。資料3についても「気候変動と観光業」に関する記事がなかなか見当たたず、確信がありませんが、前後のつながりからこういう資料だと推測しました。このような資料の抜けた問題は勉強するのに不適格なので、本当にやめて欲しいと思います。
資料1は大抵大切なことが書いてあるので無視できないのですが、21条(集会の自由)でダンスする人達の自由、22条で(ダンス)クラブの職業の自由があって、31条で罪刑法定主義(法律に定めないと罰を科せられない)がでてきます。これを資料2と照らし合わせて読み込むのですが、風営法改正で問題になったクラブ営業(踊る方ね)、クラブ「NOON」裁判とか頭の片隅にないと何を聞いているのか分かりにくいでしょう。私も、今回調べて初めて風営法によってクラブ営業がしにくかったこと、改正の裏側には風営法を改正しないとカジノ営業できないという理由があったことを知りました。
薄暗いところでお酒を出すと風俗営業とみなされて、面積や届け出の厳しい規制がありました。昔はダンスホールが売春の場になっていたという歴史があるようですが、今や時代遅れの規制ですね。カジノを営業するのに酒も出さないといけないし、薄暗くしないといけないし、深夜営業しないといけない、ということで風営法を変える必要があったようです。これは背景の知識で、問題を解くのには関係ありませんが、繋がると「あぁこういう問題なのか」と分かります。
②でナイトタイムエコノミーの活性化に資するものと具体例を出します。これが、全く資料と別に考えるのか、資料から抜き出して現在の成功例を指摘するのかが分かりにくい問題文です。私は最初、アイディアを問われているのかと思って「イルミネーションを見る観光バス」みたいな解答を書いていました。「全体講評」を見ると「食の多様性」を書けばいいようで「なーんだ」と拍子抜けです。日本は何料理を食べても世界トップレベルの店が集まっていということを基に書けばいいのか、と思います。「全体講評」では「いずれの答案もよくできていた」ということです。
③が一番聞きたかった「カジノの是非」。資料7と8しかヒントがありません。「全体講評」を読むと「資料8のシンガポールの資料を読み解けるか否かで答案の分析力に差が出た」とありますが、これだけの資料からどう読むのでしょうか?カジノ開設以来、国民のギャンブル参加率が下がったぐらいしか思いつきませんでした。
課題3
例年どおり、一番文系っぽいというか生活実感のある問題で、課題3を選んだ方は多かったのではないでしょうか。
①で高齢者の就業を難しくしている経済的・社会的要因を挙げて、②で解決策をだす、という問題です。書きやすいのですが、意外と資料が少ないので自分の知識で書かねばなりません。「全体講評」にも「それ(資料)を基に、更に本問に係わる自らの知識等を用いて考察や施策の提言を行う答案が乏しかった」と書かれていますが、すみません、冒頭に書きましたが、数年前までの問題と異なり、この問題は「知識」が必要になってきます。「知識」が必要な問題だと、仕事で関係があったりして特定の分野に得意な人に有利になってしまうので良くないと思うのですが。だから、だれでも書けるような「高齢者の就労」という問題にしているのだと思いますが、試験問題としていかがなものでしょうか。
「全体講評」に「高齢者の就業を難しくしている要因」について解答を求めているのであって「背景」ではない、と書かれていました。よもや間違いないと思いますが、問われていることは正確に答えてくださいね。つい自分の知っていることに飛びついて、書きがちです。それと、わざわざ「経済的・社会的要因」と書いているので、抜けないように二つの要因について書いてください。
②の「全体講評」で挙げているリスキリングなどは分かるのですが、「労働と介護・医療の両立支援」のイメージがわきません。さらにシルバー人材センターについても「その是非や普遍的な活用性に言及し、それを踏まえた施策を説明する者は少なかった」とありますが、無理でしょ!(去年に引き続き2回目の「無理でしょ!」)
最後に「繰り返しになるが」とことわっていますが、「資料を基にして自分の考えを展開する」ように言っています。前にも書きましたが、急に思いつける人以外は、出そうな世の中の課題については普段から考えておく、試験前にはいくつか考えてみるということが必要かもしれません。
受験を考えられている方は、とりあえずこれを読んでください!