お待たせしました。令和5年度の政策担当秘書資格試験の解答例と解説ができました。今年はドドーンとすべて無料で公開してしまいます。今年度より前の10年間分はすべて、受かる!政策担当秘書試験と受かる!政策担当秘書試験2 に載ってますので、気になる方は是非読んでみてください。
長いので、まず解説からです。
令和5年度問題解説
全体講評
今年も難しかったですね。良く皆さん合格されたと思います。
しかし、今年の難しさは近年のものと少し違います。今年は、近年あった「資料にない知識を使ってアイディアを出す」という部分は少なくて良さそうでした。その代わり、資料を読み込む作業に時間を取られる問題が多いです。「このグラフが何を言わんとしているのか」を理解するまでに時間が取られ、「全体の中でどう使うか」も悩みます。時間との闘いです。問題自体は難しくありません。
課題1はゼロカーボン政策の必要性と金融の役割、課題2は社会保障と財源問題、課題3は少子化・若者対策。すべて当たり前と言えば当たり前、予想のド真ん中の問題です。
求められる解答も当たり前のことばかりです。しかし、「当たり前のことを当たり前に書く」のは意外と難しいんです。どこまで省略できるのかも悩みます。というか、基本的には全然分かってない人に説明するみたいに、「易しく」「すべて」書く必要があります。それが結構出来ないのです。ただこれは「練習」で出来るようになります。難しいことは必要ありません。
課題2だけは、さすがに「出題の趣旨」の中で「本問については採点対象となった答案が少なく」(!)と書いてありましたが(相当少なかったんですね)、これは問題作成のミスとしか言い様がないですね。「解答のためには社会保障制度や財源の性質など系統的な知識が必要であり、やや難しい問題であったかもしれない。」ですって。難しい問題ですよ!いい加減にしてください。税と保険料の違いを意識している人なんてどれくらいいますか?私でも、えーとどうだっけ?と思いながら解きました。知っていれば難しい問題ではないです。
課題3は少子化対策。女性の社会進出が進んだ国ほど出生率が高いというデータがありますが、深く突っ込めば「ホンマかいな?」という突っ込みもできるところです(どういうメカニズムでそうなっているのでしょう)。が、深く突っ込まずにあっさり書きました。単に女性進出をすすめるだけでは、女性が苦しくなるばかりで少子化は解決しないですよね。また、ハンガリーの例というのも、議論を呼ぶ資料です(解説参照)。
いずれにせよ、選択式の合格者が135名中35名ですので、なんとか選択式試験を通過して(選択式試験で基準点に達しないと、論文式試験の答案さえみてもらえません)、その中で書き負けないように頑張ってください。
合格者の方には行政書士の資格を持たれていた方が複数名いらっしゃって、政策の知識というより、全般的な勘所や作業能力が効くのかなという印象も受けました。
課題1
温暖化の問題です。温暖化の問題に金融業界がどのように関与するか、を書きます。お金の面から締め上げる、と一言で言えばそれだけですが、書くのはかなり面倒です。練習してください。②のところでロシアのウクライナ侵攻によるヨーロッパのエネルギー政策の変更というのが挟まれていますが、すべて易しい問題でしょう。資料(と英略語)が多いので、グラフを読み取るのに時間が取られると思います。これじゃ、資料解釈のテストみたいですが、必修の課題1は今後もこんな感じでしょう。
課題2
全体でも書きましたが、一見簡単っぽいですが知らないと②が書けない問題です。このような知識を問う問題は良くないです。
解答例では、勉強の為に「保険原理」と「扶養原理」という言葉をつかって書いていますが、もちろん知らなくていいです。私もこの問題を解くまで詳しく知りませんでした。
たまに、一般有権者の方で、「保険料も(累進課税みたいに)金持ちから多く取れ!」ということを言われる方がいますが、保険と課税はちょっと違います。金持ちでも病気になる確率は基本的には同じです。だからおなじ掛け目(確率)で保険料を徴収します。リスクの分散の為です。負の宝くじというか。所得格差の再分配機能は、所得税の累進課税とかに任せるべきで、本来は保険にそういう役割を負わすべきではないです。が、両方が混ざってなんとなくグダグタになっているのが現在の日本の社会保障で、グダグダになっているのが当たり前として生きている私たちに、今更原理を説明しろ!と言われても頭の中に「?(クエスチョンマーク)」が飛ぶだけです。
「こども保険」なんてアイディアもありましたが、あれがまた世間の誤解に拍車をかけていると思います。子どもを持つことは「リスク」なのでしょうか?本来、結婚する・しない、子どもを持つ・持たないは個人の自由です。ですから本当は全額「自己負担」でまかなうべきです。が、しかし社会構造も雇用慣行もなかなか変わっていかず、子育ては大変なので、少子化がどんどん進行する。そこで、「公費」で負担する、子どもを社会全体で育てるという子育ての「社会化」が進行します(世界的にも)。本来は、雇用保険料に上乗せして子育ての財源に充てるという現在の政策は(批判が沢山あるように)筋違いなわけです。子育て世帯に給付するのに、子育て世帯の雇用保険料を上げてどうするんじゃい!とか、子どもを持っていない現役の勤労世帯から、子どものいる世帯への所得移転になってしまう、と批判されていますよね。元明石市長の泉房穂さんが友人の官僚に聞いた話として、「厚労省が財源を財務省に要求しても首を縦に振らないので、厚労省が管轄できる保険料の負担を増やしている」という話がありましたが、あながち間違っていないのかも。本来なら税でまかなう性質のものを取りやすい保険料で取ろうとしているからおかしくなるのです。お互いが連携しないうちにドンドン両方が上がっていくというのは望ましい姿ではありませんね・・・。
社会保障と財源については、国立国会図書館のこのレポートもご参考に。
「社会保険による財源調達」
課題3
少子化の問題かと思って解いていたのですが、どちらかというと若者政策一般について書かせたかったようです。①については完全に少子化ですが、②のハンガリーの例というのが、何を言わんとしているのかよく分かりませんでした。ハンガリーも一時、合計特殊出生率が回復しましたが直近は落ちていますし、あまりになりふり構わずやった政策が公平という観点からもどうなんだろう?と最近では疑問符を付けられています。「独身罰」だと批判しているものもありました。
特に資料8「ハンガリーの人口と平均年齢の推移」と資料9「ハンガリーからハンガリー国外への移住者数と移住先」の資料の使い道が分かりにくいです。ハンガリーは若年層が海外へ流出して、毎年人口が3~4万人減少し、平均年齢が段々上がり、人口減少が心配されているようです。それを希望のない国・日本から海外への人材流出と絡めて書かせる、というのが意図だったようですが(出題の趣旨で「インドやASEAN諸国地域の経済成長後に生じえる日本からの人口流出に対する方策」を評価しています)、背景が分かるにはちょっと資料不足だと思います。元ネタはこのJETROの記事で間違いないでしょう。表も同じですし。
「好景気の他の欧州諸国で高賃金を得たい」というのが、若者の国外脱出の元々の第一位の理由だったらしいです。これは、最近の日本でよく言われる「海外で稼いだ方が豊かな生活ができるや」と、寿司職人や理髪師さんなんかが海外に行っているという日本の現状にあてはまりそうです。いや、待てよ、アレは円安が直接の原因だから無理があるか。無理矢理感がありますね。賃金が上がらない日本の若者の脱出という点で、ハンガリーとの共通点を考えさせるという意図なのでしょう。しかし、直近はハンガリーでは急激に賃金上昇があったようで、不満の一位は「政治への不満」となっています。そうするとまた話が違ってくるような・・・。
ここあたりの評価を読むと、独自アイディアを評価する傾向はまだ変わっていないようですので、色んなアイディアを書いてみましょう。
ちなみに、ハンガリーの平均年齢は資料によると42.5ぐらいですが、日本は48.6歳(World Population Reviewによる2020年の数字)。
1位 モナコ 55.4歳
2位 日本 48.6歳
3日 ドイツ 47.8歳
4位 サンピエール島・ミクロン島 46.5歳
5位 イタリア 44.5歳
6位 ギリシャ 44.5歳
7位 スロベニア 44.5歳
しかし、直近の報道によると、日本の平均年齢はとうとう50歳になったとのことです。日本は高齢国なんですね・・・。