政策担当秘書資格試験 令和5年度問題解説&解答例(2)

解答例です。

課題1(必須)

  • 2018年に公表されたIPCCの「1.5℃特別報告書」は、将来の地球の平均気温の上昇が産業革命前と比べて1.5℃を超えないためには、2050年前後には世界のCO2排出量が正味ゼロとなっている必要があるとしている。IPCCの報告書によると、これから排出できる残余カーボンバジェットは300GtCO2しかない。しかも、220GtCO2以上の推定値が増減するとされており、今後排出できるCO2がほとんど残っていない状態となっている。そのため、今すぐにでもCO2の排出をゼロにする必要がある(資料1)。金融業界にとっても、融資先が気候変動によって被る物理的損壊やサプライチェーンの中断等の物理的リスクとともに、融資が停止または縮小することにより、化石燃料に関連する資産が無価値になったり価値が低下するという移行リスクがある(資料2)。このために、金融業界も将来を見据えた長期的な視点でCO2の排出抑制に資する行動をとる必要がある。

しかし、現在ではIEAのシナリオに基づく年間のエネルギー関係の投資額は、ネットゼロ排出2050年実現シナリオ(NZE)と表明公約シナリオ(APS)では大きな差があり(資料3)、ネットゼロを実現するためには、より一層の投資が必要となっている。そこでGFANZとその傘下に位置づけられる業態ごとにネットゼロ連合(資料4-1)を設立し、資金の提供先の企業に対する温室効果ガスの排出量に関する中間目標を定め(資料4-2)、その目的にあった投資を促すという方法で、資金の面から温室効果ガスの排出抑制の実効性を高めようとしている。

  • EUは、ロシアよるウクライナ侵攻後、短期的にノルドストリーム及びノルドストリーム以外のモノも含めて、ロシアからの天然ガスの供給を急速に減少させた(資料5-1)。長期的には、ロシアの天然ガスに頼る姿勢を改めロシア以外からの天然ガスの割合を高め、かつ天然ガスの輸入量自体をも下げるようにSTEPS(公表政策シナリオ)で計画している(資料5-2)。つまり、エネルギー安全保障の面からも、自国内でエネルギーを生産できる方向へ進めようとしているといえる。しかしAPS(公表公約シナリオ)を実現するためには、直近および将来にわたって更に多くのクリーンエネルギーへの投資が必要となっており、その方面への投資を増やすように、さらに政策を見直すと考えられる。
  • 我が国は、直接、産業界に対して脱炭素化に必要な技術開発支援や国際競争力を高めるための補助金、税制優遇などを行うと共に、その資金の提供元である金融機関に対して積極的に国内外の脱炭素化に取り組み、投資を行うように促進すべきだと考える。その為の手法としては、例えば、カーボンプライシングの手法をとった炭素税の仕組み(資料6)を導入することで、将来の課税水準を意識させ早期に投資を促すことで、化石燃料に関連する資産の価値が低下する移行リスクを下げながら構造転換を促す方法が考えられる。また、気候変動は全地球的な問題であり、一国だけが目標を達成すればよいというものではない。規制の緩い他国に生産設備を移すといったカーボンリーケージも考えられることから、これへの対応も必要だ。工業化の過程で多くの炭素を排出することが予想される一方、対応するノウハウやシステムが不足している途上国に対する支援、例えばインドネシアに対して行ったような発展途上国に対する支援(資料7)を推進することが重要である。さらに、EUにおけるサステナブル金融規制(資料8)などを参考にして、金融機関にサステナブル金融開示規則、企業に対して非財務情報開示を求める基準を策定するなどして、より一層の投資を促すべきである。

1532字

課題2(選択)

  • 我が国は、少子化・人口減少時代にあり、これからも超高齢社会が続き、また働き手が減ることにより社会保障に充てる財源が不足すると予想されている。また、若年層と高齢者の間で、負担と給付に不公平があると指摘されており、その様な構造により、さらに少子化が進むのではないかと懸念されている。このような状況下で、将来世代と現役世代、高齢者世代が安心して暮らしていくためには、全世代が支え合う仕組み作りが必要とされている(資料1)。こうした考えに基づき、令和5年の健康保険法の改正においても、子ども・子育て支援の拡充と高齢者医療制度の見直しが行われた(資料2)。この背景には、高齢化に伴い現役世代の社会保障に対する負担が重くなっていることがある。例えば現役世代が入っている健康保険の保険料は、会社と被用者でほぼ全額負担しているのに対して、退職後の高齢者が入っている国民健康保険は国や市町村の税金が半分程度使われているなど、負担財源の不公平がある。また、現役世代の保険料が、前期・後期高齢者の医療保険に供出されており、その負担が重くなっていること、保険の理念から離れてきているなどの問題がある。年金においても、厚生年金・共済年金と基礎年金の関係において、公費の投入について同様の構造が見られ(資料3)、収入の多い現役世代が多く負担している。

一方、各国の政策分野別社会支出を比較してみると、我が国は家族に対する支出の比率が低い(資料4)。子育て世代の負担が重く、手当が薄いことが少子化を加速している原因の一つであることは否定できない。

 社会保障費の大きな部分を占める医療費においても、30年前の1990年と比べ2020年は、全体が2倍以上に増えていることとともに、公費の割合が31.4%から38.4%へと増加しており(資料5)、公的部門によって支える割合が高まっている。また、医療保険制度の財源構成をみると、後期高齢者は現役世代の被用者保険からの支援金が約4割を占め、ここでも現役世代の負担が高くなっていることがわかる(資料6)。高齢になるほど一人あたりの医療費は高額になる傾向になるが、保険料と自己負担額は小さい(資料7)。保険料の一部負担割合が高齢者になるほど低く抑えられていることもその原因である(資料8)。

 このような状況に鑑みて、これまで負担の相対的に軽かった高齢者も含んだ全世代で支え合う全世代型社会保障の構築が必要とされているのである。

  • 全世代型社会保障制度を支えるためには、例えば保険は病気やケガに対応するために多くの人から拠出金集めて、いわば不幸なクジに当たった人に支出するという考え(保険原理)に基づくものであるから、保険料は受け取る確率的な給付と同じでなければならない(給付反対給付均等の原則)、また、その保険料と支払いの収支は、経費を除いて、均衡するべきである(収支相当の原則)。その観点からは、被用者保険から前期・後期高齢者保険への拠出は問題があるといえる。また、保険であるから、基本的には収入や財産の多寡で保険料を増減することは望ましくなく、多くの加入者が一定の負担をすることによってそのリスクを分散るというのが原則であるべきだ。一方、現実的には、社会をさせるという観点(扶助原理)から、ある程度の拠出や公的負担は是認されてきた。しかし、現在の財政状況や現役層の負担の重さから考えると、病気やケガになりにくい若年層に多くを負担させるこれまでの方向から、リスクの高い高齢者の層にもより負担を求める必要があると思われる。一方で、応能負担の観点から一律に負担増を求めるのも問題があり、収入やあるいは財産の多寡によって一定程度の負担増を検討すべきであろう。

子どもを産み、育てるということは個人の選択の問題であり、本来は自己負担で対応すべきであるが、少子化の問題は社会構造に大きく影響するために、今後はより社会全体の問題ととらえ、自己負担の部分を縮小して公費の部分を多くしていくべきであろう。財源としては社会全体に関わることであるから、税が適当であるが、一般会計に占める税とその他の収入は、令和5年度で歳入の7割程度であり、収入増を考えていかなければならない状態にある(資料9)。消費税は、収入や年齢にかかわらず、広く薄く、消費という行為を基準に徴税する方法であり、あまねく多くの人に分配するという公費の概念に適応する。よって、消費税の一部を少子化対策に充てることは、その性質に適合していると言える。実際に、一般会計税収入の内訳では、近年は消費税と所得税の伸びが著しく、令和5年度における一般会計予算歳入においては、金額ベースで消費税、所得税、法人税の順となっている(資料10)。

1942字

課題3

  • 日本はOECD諸国の中では、合計特殊出生率が低い国のグループに入り、2000年代以降、低い水準のまま推移している(資料1)。この原因の一つには、男性が働き、女性が家庭で育児や家事をするという労働慣行や家庭内での性別役割分担が影響していると考えられる。文化的にも、合計特殊出生率が低い、例えば韓国やイタリアなど、男女の性別役割分担が固定的な国が多い。実際に、日本では男性の収入が多いと子どもの数が多いという研究結果があり(資料2)、この見方を裏付けている。

また、各国の女性の就業率と合計特殊出生率の相関を見ると、女性の就業率の高い国が合計特殊出率が高いという正の相関関係が見られる(資料3)一方、男女別に見た生活時間でも出生率の低い日本や韓国においては、男性は他国と比べ飛び抜けて長時間有償労働している。その反面、子育てへの関与が低く、女性は無償労働、つまり家事や育児・介護といったケア労働に従事している割合が高い。出生率が高いスウェーデンやフランス、英国などの国は男女差に大きな違いは無い(資料4)。

男性が働き、女性が家事・育児をするという性による役割分担は、育児休業の取得状況にも現れている。育児休業取得率が女性85.1%に対し男性13.97%と低い上に、取得期間も女性が10ヶ月から18ヶ月が全体の3分の2近くを占めているのに対し、男性は3ヶ月未満が9割近くを占めており、合計特殊出生率が高い国と比較すれば、相当低い水準であるという特徴を持つ(資料5)。

  • ハンガリーでは、家族手当や児童手当といった家族支援策の他、住宅やマイカーの購入補助制度、乳児保育手当や保育手当効、25歳未満の若者の所得税免除や不妊治療に対する積極的な政策など、多様な支援を行っている(資料6)。その効果もあり、2011年に1.23まで落ちた合計特殊出生率を2018年には1.55まで回復させている(資料7)。近年、ハンガリーは若者が賃金の高い近隣国へ流出し、人口が減少し、平均年齢も年々上がってきているが(資料8)、これらの手厚い支援策の効果もあってか、2015年をピークに国外への移住者の数は減少している(資料9)。このような例を参考に我が国でも包括的な支援策を行う必要があるだろう。男女の固定した性別による役割分担を見直し、男性も育児、家事をして女性も働きやすくする環境作りが必要で、その為には男性の長時間労働を改めることや育児休業を取りやすくするなどの政策も行うべきである。また、前提として、若い世代が希望を持てるような雇用の安定化や所得格差の是正を行う必要があると考える。

我が国では15歳から24歳の自殺者がOECD平均より高いことにも留意しなければならない(資料10)。とりわけ、女性の自殺比率が高く、日本同様、女性の性差分担が厳しい韓国が一位となっていることにも注意が必要だ。女性の役割分担を見直すと共に、メンタルケアハラスメント防止やいじめ対策等、自殺者対策を行う必要がある。

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